EMPLOYMENT REFORM 2026–2035
社会保険・雇用保険の適用拡大、年収の壁の見直し、扶養認定の新ルール、同一労働同一賃金ガイドラインの改定——
複数の制度改正が重なり、非正規雇用に関わる前提が根本から変わろうとしています。
| ① 社会保険 2026〜2035年 規模要件撤廃へ | ② 雇用保険 2028年10月 週10時間以上へ |
| ③ 年収の壁 所得税非課税ライン 178万円へ | ④ 扶養認定 2026年4月 契約書ベースへ |
Social Insurance & Employment Insurance
「うちは小さいから対象外」「週20時間未満だから大丈夫」。その前提が、段階的に崩れていきます。
社会保険(厚生年金・健康保険)
2016年から段階的に進んできた適用拡大は、2025年6月成立の年金制度改正法(令和7年法律第74号)で最終フェーズが決まりました。企業規模要件は2035年10月に完全撤廃となり、その前段階として2026年10月には「106万円の壁」と呼ばれた賃金要件(月額8.8万円以上)も撤廃される予定です。
【前提】短時間労働者の加入要件とは
もともと社会保険(厚生年金・健康保険)は、週所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員が加入対象でした。適用拡大とは、これに加えて「週20時間以上」勤務するパート・アルバイト等にも段階的に対象を広げていく改正です。現在は①週所定労働時間が20時間以上、②月額賃金8.8万円以上(2026年10月撤廃予定)、③2か月超の雇用見込み、④学生でないこと、の4要件を満たす短時間労働者が加入対象です。企業規模要件の拡大とは、この「週20時間以上」の条件を満たす従業員が対象となる企業の範囲が段階的に広がることを指します。
| 時期 | 変更内容 | 対象規模 |
| 2024年10月〜(施行済) | 企業規模要件 拡大 | 51人以上 |
| 2026年10月〜 |
賃金要件(月額8.8万円)撤廃 週20時間以上ならば月収不問で加入義務 |
51人以上(継続) |
| 2027年10月〜 | 企業規模要件 縮小 | 35人超 |
| 2029年10月〜 | 企業規模要件 さらに縮小 | 20人超 |
| 2032年10月〜 | 企業規模要件 さらに縮小 | 10人超 |
| 2035年10月〜 | 企業規模要件 完全撤廃 | 全企業・規模不問 |
※ 賃金要件撤廃の具体的時期は最低賃金の状況を踏まえて確定。上記は年金制度改正法(令和7年法律第74号)に基づくスケジュール。従業員規模のカウントは厚生年金保険の被保険者数(フルタイム+週所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の者)による。
雇用保険
現行の雇用保険加入要件は「週所定労働時間20時間以上」ですが、2028年10月からは「週10時間以上」に引き下げられます。週2〜3日、1日数時間のみの勤務者も加入対象となり、企業側の手続き負担と保険料負担が増加します。あわせて、基本手当の給付日数・育児休業給付の受給要件なども週10時間基準に合わせて改正される予定です。
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現行(〜2028年9月) 週 20時間以上 |
→ |
2028年10月〜 週 10時間以上 |
社会保険の規模要件撤廃(〜2035年)と雇用保険の週10時間への引き下げ(2028年)がほぼ同時期に進行することで、「短時間勤務で保険加入を回避する」という雇用設計の前提が、制度的に意味を失っていきます。これは単なる制度改正ではなく、日本の非正規雇用のあり方そのものの転換です。
Walls, Dependents, Equal Pay & Communication
社会保険・雇用保険の適用拡大と並行して、働く側の「年収管理」と雇用する側の「待遇設計・説明責任」にも大きな変化が生じています。
THEME 01 | 所得税の「年収の壁」
所得税の非課税ライン(課税最低限)は、1994年以来長く103万円のまま据え置かれてきましたが、近年の税制改正で急速に引き上げが進んでいます。2025年(令和7年)の税制改正では基礎控除・給与所得控除の見直しにより実質的な非課税ラインが約160万円に拡大し、さらに2026年(令和8年)の改正では約178万円まで引き上げられる見込みです。
| 時期 | 所得税の非課税ライン | 主な改正内容 |
| 〜2024年 | 103万円 | 30年間変わらず |
| 2025年〜(令和7年改正) | 約160万円 |
基礎控除・給与所得控除を拡充 年収200万円以下の場合の非課税ライン |
| 2026年〜(令和8年改正) | 約178万円 |
基礎控除・給与所得控除をさらに拡充 ※令和8・9年分の時限措置を含む |
所得税の非課税ラインが拡大しても、社会保険の「106万円の壁(賃金要件)」と健康保険扶養の「130万円の壁」は別ルールです。「年収の壁」と一口に言っても、所得税・社会保険・扶養認定でそれぞれ基準が異なります。従業員への説明の際には、どの「壁」の話なのかを切り分けることが重要です。
THEME 02 | 健康保険 被扶養者認定
健康保険の被扶養者認定(いわゆる「130万円の壁」)の判定方法が、2026年4月1日から変わりました。これまでは給与明細や課税証明書など過去の実績をもとに年間収入見込みを判断していましたが、新ルールでは労働条件通知書(または雇用契約書)に記載された賃金・労働時間・勤務日数をもとに年間収入を積算する方式が明確化されています。
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旧ルール(〜2026年3月) 給与明細・課税証明書などの実績書類をもとに、保険者が総合的に年間収入見込みを判断。保険者によって判断基準にばらつきがあった。 |
新ルール(2026年4月〜) 労働条件通知書等に基づいて収入を積算。新ルール適用には、①労働条件通知書等の添付と②「給与収入のみ」の申立書が必要。 |
企業への実務的影響:労働条件通知書の整備が急務
新ルールの適用を受けるには、時給・所定労働時間・所定労働日数・時間外労働の有無などが明確に記載された労働条件通知書が必要です。曖昧な契約内容では書類として認められず、従業員が被扶養者として認定されない可能性があります。また、通勤手当は全額収入に算入されるため、計算を誤ると130万円を超えるケースも出てきます。パート・アルバイト全員の契約書の点検・整備が必要です。
THEME 03 | 同一労働同一賃金
2020〜21年に施行されたパートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)のガイドラインについて、2025年11月に施行後初の本格的な改正案が公示され、2026年10月1日に施行されました。近年の最高裁判決(メトロコマース事件・大阪医科薬科大事件・日本郵便事件等)の判断基準をガイドラインに明確に落とし込んだもので、これまで判断が曖昧だった退職金・各種手当・家族手当などの取扱いについて、「問題となる例」「問題とならない例」が具体的に示されています。今回の改正では賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・福利厚生施設の利用条件が新たにガイドラインに追加されています。
今回の見直しで明確化された主な論点
退職金の非支給・ 家族手当・住宅手当・資格手当の取扱い、有期契約社員への賞与・昇給の考え方など。正社員との待遇差が「不合理」かどうかについて、使用者側の立証責任がより明確に求められる方向に動いています。また、労働者から待遇差の理由を求められた場合の説明義務(パート有期法第14条)への対応も、引き続き重要な実務課題です。
THEME 04 | 説明義務と従業員コミュニケーション
パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項は、パート・有期雇用労働者から求めがあった場合に、正社員との待遇の相違の内容・理由、および待遇決定にあたって考慮した事項を説明することを事業主に義務づけています。さらに省令改正により、雇入れ時の労働条件明示事項に「待遇の相違等について説明を求めることができる旨」と相談窓口の記載が追加されています(2026年10月1日施行)。
| 根拠条文 | 事業主の義務 |
| 第6条(文書明示) | 雇入れ時・更新時に、①昇給の有無、②退職手当の有無、③賞与の有無、④相談窓口を文書で明示する義務(違反は10万円以下の過料) |
| 第14条第1項(雇入れ時説明) | 雇入れ時・更新時に、不合理な待遇禁止・賃金・教育訓練・福利厚生・正社員転換措置など、実施している雇用管理上の措置内容を説明する義務 |
| 第14条第2項(求めに応じた説明) | パート等から求めがあった場合、正社員との待遇差の内容・理由・考慮事項を説明する義務。説明を求めたことを理由とする不利益取扱いは禁止(第14条第3項) |
| 省令改正(2026年10月〜) | 労働条件明示事項に「14条2項に基づく説明を求めることができる旨」と相談窓口(担当者・部署等)の記載が追加。厚生労働省のモデル労働条件通知書も改訂済み |
実務的に難しいのは「説明できる状態をつくること」
パートから「なぜ正社員とボーナスの有無が違うのか」「なぜ通勤手当の扱いが違うのか」と問われた場合、担当者がその場で合理的な理由を説明できなければなりません。事前に待遇差の根拠を整理し「待遇差説明書」として文書化しておくことが、トラブル予防と法令対応の両面で必要です。「聞かれてから考える」では対応できない段階になっています。
人手不足の時代に、「説明できる職場」が選ばれる
制度的な義務への対応としてだけでなく、採用・定着の観点でも「説明責任を果たせる職場かどうか」は重要になっています。社会保険の適用拡大や年収の壁の変化により、パート従業員の「自分の保険や待遇がどうなるか」への関心は高まっています。入社時・契約更新時に丁寧に説明し、疑問があればすぐに相談できる窓口がある職場は、定着率の向上と採用競争力の強化につながります。人手不足が続く中で、パートへの説明とコミュニケーションの質は、経営リスクへの対処であると同時に、採用戦略でもあります。
年収の壁の縮小・扶養認定の厳格化・同一賃金の強化・説明義務の拡充が一斉に進むことで、「保険料を回避するためにパートを使う」「待遇差は説明しなくていい」という前提が、制度的に許容されなくなっています。複数の制度が同時に動いているこの時期に、非正規雇用のあり方と従業員とのコミュニケーションを一度整理し直すことが、人手不足への中長期的な対応としても不可欠です。
How to Respond
「社会保険の手続き」だけで終わる問題ではありません。雇用設計の全体を見直す機会として捉えることが重要です。
「複数の制度が入り組んでいて、どこから手をつければよいかわからない」——それが、今多くの企業が直面している本音ではないでしょうか。
ここでは、制度の複合的な変化を踏まえて、経営としてどう考えるかを整理します。
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01
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対象者の把握とコスト試算——「驚きのない状態」をつくる自社のパート・アルバイトのうち、各フェーズで新たに社会保険や雇用保険の加入対象となる人数を把握し、会社負担の保険料増加分を試算することが出発点です。その際、賃金要件の撤廃(2026年)・企業規模要件の縮小(2027年〜)・雇用保険の週10時間化(2028年)の3つを時系列で並べて試算することで、今後数年の人件費構造の変化が見えてきます。「いつ、どのくらい増えるか」を把握しておくことが、経営判断の前提です。 |
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02
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契約書と就業規則の整備——制度変化の前提になる書類が変わっている扶養認定の新ルール(2026年4月)により、労働条件通知書の記載内容が扶養認定の判断材料として直接使われるようになりました。時給・所定労働時間・勤務日数・時間外労働の有無が明確に記載されていない契約書では、書類として認められない可能性があります。また、社会保険適用拡大にあわせて就業規則の適用範囲・処遇規定を見直す必要も生じます。「今の雇用契約書でよいか」を点検するタイミングです。 |
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03
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従業員への説明——「壁」の種類を切り分けて、丁寧に伝える「年収の壁」という言葉は従業員の間でも広く認知されていますが、所得税の壁・社会保険の壁・健康保険扶養の壁はそれぞれ別のルールで動いています。制度変化のタイミングで「どの壁がどう変わったか」を正確に伝えないと、従業員の誤解に基づく就業調整や不必要な退職・転職につながるリスクがあります。個別の状況に応じた説明資料の作成と面談対応が、現場マネジメントの重要課題になっています。 |
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04
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非正規雇用のあり方を根本から問い直す——同一賃金の文脈で、雇用区分を再設計する社会保険料の企業負担を回避するためにパート・アルバイトを活用してきた場合、保険適用の拡大とともにそのコストメリットは縮小していきます。その一方で、同一労働同一賃金のガイドライン改定により、正社員と同等の業務を担う非正規社員に対して不合理な待遇差を設けることはますます難しくなっています。「非正規だからコストが安い」という前提が崩れた今、自社のパート・非正規社員をどういう位置づけで雇用し、どのような処遇設計にするのかを、正社員制度との整合性も含めて再設計する必要があります。 |
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05
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説明体制とコミュニケーション設計——「聞かれる前提」で仕組みを整えるパートタイム・有期雇用労働法第14条第2項により、パート・有期雇用社員から正社員との待遇差の内容・理由を問われた場合、事業主はその場で説明する義務を負います。2026年10月1日からは省令改正により、労働条件通知書への「説明を求めることができる旨」と相談窓口の記載も義務化されています。 これは法律対応であると同時に、採用・定着戦略でもあります。社会保険の適用拡大や年収の壁の変化を受けて、パート従業員の「自分の保険や待遇がどう変わるか」への関心は高まっています。入社時・更新時の丁寧な説明と、日常的な相談を受け付ける窓口の整備は、制度変化の多い時期に従業員との信頼関係を維持するための実践的な手段です。「説明できる職場」は、人手不足の中での採用競争力にも直結します。 |
当事務所の支援内容
社会保険・雇用保険の対象者洗い出しとコスト試算、労働条件通知書・就業規則の整備、従業員・パートへの説明資料の作成と相談窓口の整備、正規・非正規間の待遇差の根拠整理と「待遇差説明書」の作成、雇用区分の再設計——複数の制度が入り組んでいるからこそ、個別の対処ではなく全体を見た上での整理が必要です。「どこから手をつければよいかわからない」という段階からご相談ください。初回は無料で対応しています。
社会保険・雇用保険の対象者試算から、契約書・就業規則の整備、
非正規雇用の待遇設計の見直しまで、一貫してサポートします。
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